花と展望を満喫後、蒼然たる鄙びた温泉宿と洗練された乳頭の湯巡り


秋田駒ケ岳 1637m 2012年7月20日―22日

花の百名山として知られる秋田駒。その絶好の季節に、14人で訪れた。秋田駒が岳(男女岳)の山頂で夜行高速バスを使っての現地入りだったが、一行は予想以上に元気溌剌で、日程も極めて順調。関東が雨模様であるのに、行く先々のみちのく秋田は快晴。山肌を彩る輝く緑と紺碧の大空とのコントラストが映え、ニッコウキスゲの黄をはじめ可憐な淡いピンクのコマクサなど出会った花がどれもこれも素晴らしい山旅となった。

雨の中、浜松町のバスセンターを立ったのが午後10時半前。なかなか眠りにつけなかった人も多かったようだが、3列シートのバスはみちのく路を疾走し、いつしか秋田県内へ。窓のカーテンを開けると、雨は全くなく、陽が上り始めている。横手を抜け、大曲を過ぎ、やがて田沢湖が見えてくると、もう終点のJR田沢湖駅前のバス停だ。30分ほど早い到着で、心配していた乗り継ぎ時間も余裕をもって八合目行きの路線バスに乗り換えることができた。

八合目にはすでに大勢の登山者がいて、次々と身支度を整え山頂を目指して登り始めている。我々も、早速、準備体操をして、花いっぱいの新道コースをたどることにする。整備された登山道が続き、30分ほどで片倉岳の展望台に到着だ。遠くに田沢湖が見える。ここからは多くの花が競い合う。すぐにニッコウキスゲの群落に出会う。木道をしばらく行くと、東西に伸びている阿弥陀池の分岐だ。右手には男岳(おだけ)、左手には男女岳(おなめだけ)がそれぞれ大きな山容を現している。秋田駒ケ岳は男女岳を指すが、どの山も堂々としている。ひと休みのあと、ザックを分岐にデポして、まずは男岳の山頂を目指す。急峻な岩場を登りきると、山頂には駒形神社の鳥居が建ち、見晴らしは360度の大パノラマだ。日本海側には雲海を従えた鳥海山が見える。目を反対側に転じると、南部片富士と言われる岩手山が雲間から頭を出している。眼下には、火口原に女岳(めだけ)が盛り上がるように屹立している。砂礫地の斜面は、火山鶴の湯の混浴露天風呂性の地形特有の景観を見せ、いつまでも見惚れてしまうほど素晴らしい。

周囲の山裾から上がってくるガスが向こうの男女岳を隠す。ガスで視界が奪われないうちにと、いったん阿弥陀池まで下降した後、今度は最高点の男女岳の山頂を目指す。丸太階段のジグザグ道の傾斜はなかなかきつい。30分ほどで一等三角点のあるピーク=写真右上=だが、残念ながらガスのため展望は男岳ほどよくない。早々に下山にかかることにして、阿弥陀池の木道わきでお昼をとる。

昼食後は横岳を経由してケルンのある眺望のいい焼森に着く。その名の通り、まるで山頂一帯が焼かれたようなハゲ坊主だ。ここの砂礫地では念願のコマクサが待っていてくれた。道の両側に保護柵に守られてポツンポツンとあちこちに咲いている。さらに北進すると、シャクナゲコースと言われる八合目までの尾根道が長く伸びている。途中、急下降もあるが、時間的にはそう長くはない。草木で覆われた山道をしばらく行くと、いきなり視界が開け、スタート地点の八合目の駐車場にたどりついた。

予定よりも早く八合目に到着できたことで、バスもひとつ繰り上げて田沢湖手前のアルパこまくさバス停で下車。今日の宿は江戸時代から綿々と続く乳頭温泉の秘湯の宿、鶴の湯だ。宿からの迎えのマイクロバスに乗り換え、佐竹藩主も湯治に訪れたという乳頭最古の湯で山登りの疲れを取ることにする。「本陣 鶴の湯」と書かれた古びた門をくぐると、まるで江戸時代の宿場にタイムスリップしたかのよう。6年ごとに葺き替えるという茅葺屋根の建物が両側に並ぶ。ザックを置いて、早速、乳白色の混浴露天風呂=写真左=に入る。しっとりとした乳白色の湯はきれいな湯だ。風呂は大きく、周囲の木々、素朴で自然な作りの脱衣場が一段と情緒を醸し出す。

温泉から上がると、一角に囲炉裏が切ってある広間で夕食だ。多種多様な山菜はどれもが美味だ。囲炉裏で焼き上がったイワナを頭からほおばり、地酒やイワナの骨酒に、舌鼓を打つ。深い森に包まれたいで湯の夜はテレビなどないが、時がたつのも忘れる。

翌日は、乳頭温泉のブナ林を散策し、乳頭温泉で若い女性に人気があるという清楚で近代的な妙乃湯で温泉三昧ということにする。鶴の湯から吊り橋や渡り、静かな木立に囲まれた田沢湖高原(乳頭温泉)休暇村までの3キロほどのトレッキングだ。この地を訪れた駐日ドイツ大使が感激したことで、大使の名前をもじって「ツアールの森」と名付けたという。大きなブナ林をのんびり、ゆっくりと歩く。せせらぎの音や鳥の鳴き声が聞こえる。キャンプ場を抜け、車道に飛び出すと、まもなく休暇村だ。目的地の妙乃湯はすぐそこだ。

道路沿いに建つ妙乃湯は瀟洒な清潔感あふれる作りだ。カルシウム、マグネシウムを含んだ褐色の湯で、檜の湯船からの眺めは最高だ。緑濃い樹林とその向こうには50mほどの小瀑布を楽しむことができる。前日の古色蒼然とした鶴の湯とは一味もふた味も違った洗練された温泉だ。

花と展望の秋田駒への登頂で始まった山行の二日目はブナ林のトレッキングで適度に汗を流した後、乳頭温泉の個性豊かな新旧の湯巡りを存分に堪能した。何よりも天気に恵まれた、素晴らしいみちのくの山旅となった。(G

コース記録

<7/21> 

浜松町22:25=(夜行高速バス)=

7/21

40田沢湖駅前8:15=(路線バス)=9:14駒ケ岳八合目40⇒⇒10:30片倉岳展望台⇒⇒110男岳⇒⇒11:40阿弥陀池避難小屋⇒⇒12:15男女岳12:25⇒12:35阿弥陀池避難小屋(昼食)13:05⇒⇒横岳分岐⇒⇒140焼森⇒⇒14:20八合目14:40⇒(路線バス)⇒15:05アルパこまくさ=(宿のマイクロバス)=乳頭温泉・鶴の湯(宿泊)

7/22

鶴の湯9:0⇒⇒乳頭温泉散策⇒⇒11:0妙之湯⇒⇒乳頭温泉休暇村14:32=(路線バス)=15:17田沢湖駅前16:40==19:48東京


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