信仰と花の名山を巡る雲上トレッキング
月山 1984m 2011年7月23日(土)〜24日(日)
山形県のほぼ中央部に位置する月山は、羽黒山、湯殿山と合わせての出羽三山の主峰である。美しい稜線が立ち上がるトップに月山神社が鎮座し、古来、修験者が数多く訪れてきた。そして月山の自然は万年豪雪の厳しい環境だ。豊かな高山植物が育まれてきたゆえんである。
朝のバスはいつもと逆回り、清澄白河を5時半に出発し、木場、錦糸町、曳舟と回り17人の参加者を順次ピックアップして墨田区・堤通から首都高に乗った。500キロほどにも及ぶ長旅。車内の雰囲気は一段と華やぎ早くも遠足気分である。超大型台風6号の進路に気をもんだが、ふたをあけてみれば、天気も上々だ。震災の直接的な爪痕は走行中のバスの中からはうかがい知れないが、二本松インター辺りが福島原発に最も近く、ここから東に直線距離で50キロの地点であることに思いをいたすと、重苦しい気持ちにならざるをえない。一日も早く事態が収拾するのを祈るばかりだ。
震災ということでは、今回、白河以北の高速道を走るトラックやバスの通行料金が無料扱いとなり、おかげで我々のバスもその恩恵に浴することができた。その無料扱いに気をよくしたわけではないが、会話がはずむうちに、高速の降り口をひとつスキップして鶴岡インターまで行ってしまった。結果的にはこのコースを取ったことが正解。出羽三山神社への道がわかりやすく、何よりもあの藤沢周平の時代小説の舞台ともなった鶴岡市内の落ち着いた街並みを車窓から楽しむこともできた。
初日の見どころは出羽三山神社の大きな杉木立の中に建つ国宝五重の塔だ。神社近くの文化会館ロビーで昼食を済ませたあと、早速、随神門から山頂への2,246段の石段を登る。5分ほどで平将門創建と伝えられる国宝五重の塔のわきに出る。わが国には法隆寺の五重の塔など国宝・五重の塔は9つあるが、羽黒山の五重塔は彩色を施していない素木作りの塔で森閑とした杉木立の中に溶け込んでいる。茶店に寄ったり、大きな樹齢を重ねた杉やブナに感心したりして、1時間ほど樹林散策を楽しんだ後、1500年の歴史を持つ山頂の三山合祭殿に詣でた。
神社周辺には、月山詣でをする「講」の団体のために数多くの宿坊があるが。我々の宿、宮田坊もそのひとつだ。夕食は宿坊の大広間で、山菜を中心にした精進料理とお神酒代わり(?)のお酒を楽しむ。大相撲の優勝力士が飲むような大杯にたっぷり1升がなみなみと注がれ、皆でそれを仰ぐように回し飲みした。ほかの講の団体もいて、途中からは期せずしてカラオケ合戦となるが、ここは吉本興業顔負けの若手スターを擁したわが浪漫会の独壇場となった。講の団体は元締め格のお年寄り幹部連が舞台で歌ったり跳ねたり踊ったりするわがスターを見て大喜び。あれは一体何だというキョトンとした顔がしだいに崩れ、ほおがゆるんでいくさまは舞台以上に面白い光景だった。同じ一行として、うれしいやら恥ずかしいやら、涙がとまらない夜となった。
明けて翌日。9人で100畳近くあろうかという超大部屋で寝た女性陣も、また女性陣より1人少ない人数のため、女性陣の部屋の5分の1ほどの部屋に押し込められた男性陣も、前日の宴会での活躍がうそのように起床し、朝の食事ではご飯をお代わりをする元気さをみせた。
お世話になった宮田坊を後にし、いよいよ月山へのアタックだ。我々を乗せたバスは右に左に九十九折りの狭い山道を、うんうん、どっこいしょと上がっていく。すれ違う車にハラハラしながら8合目駐車場まで、40分ほど。まだ7時前というのに駐車場はすでにバスや乗用車で埋まっていた。
歩きだすとすぐに、お花畑で知られる弥陀ヶ原の池塘だ。木道わきにニッコウキスゲ、アザミ、ヨツバシオガマ、チングルマ、ハクサンフウロと数多くの高山植物が出迎えてくれる。遠く北に目を転じると、きれいな稜線を描く鳥海山が雲間に見え隠れする。月山の山頂方向は残念ながらガスがかかっているが、山行には上々の天気である。季節もいいせいだろう。行き交う白装束の人、ハイカーが結構多い。頂上まで行けるのか、少し心配になるほどのお年寄りも互いに励まし合って、歩いている。
弥陀ヶ原コースの一番の難所である行者返しは大きな石が立ちはだかる急坂だ。ここを過ぎると、あとは比較的楽な山道となり、足元も楽になる。歩き始めから3時間。山頂の小屋と月山神社の石垣囲いが見えてくる。いわゆる山頂は神社そのもので、拝観料500円を払ってお祓いを受けた後、神社内を周回することになる。江戸時代の俳聖・芭蕉が「雲霧山気の中に氷雪を踏んで登ること八里、更に日月行道の雲関に人かとあやしまれ、息絶身こごえて、頂上にいたれば日没して月顕わる」と詠んだのは、4世紀以上も昔のこと。バスで8合目まで上がった我々とはさぞかし有難味も違った山頂到達だったろう。
宿坊に用意してもらったおにぎりを食べ、記念撮影をした後、コースを南にとっての下山だ。湯殿山方面への道は、登ってきた弥陀ヶ原コースより難所が続く。岩がゴロゴロの急坂を慎重に下る。登ってくる人も多く、道を譲り合う。正面には姥沢の雪渓があちこちに点在しているのが見える。牛首から雪渓を通り姥沢に一気に下るコースもあるが、ここは当初予定通り、金姥まで行き、姥ケ岳経由で月山リフト駅を目指す。金姥まではひたすら歩くのみの山道だが、姥ケ岳の山頂を通過した後は、360度の素晴らしい景色が展開する。緑の山肌のところどころに雪渓が見え、見上げると青い空が広がる。3000m級の北アルプスのような稜線風景をまのあたりにできる感動の雲上トレッキングだ。
途中、ドライバーの岡田さんからの着信歴があったのに気付き、連絡を取ろうと試みるがつながらない。もしや下山口で待機していてくれるはずのバスに異変があったのかと気をもんだが、結局、特に問題はなくひと安心。姥ケ岳から少し歩くとペアリフトのリフト上駅だ。もっともTさん、Kさんのペアを除いてほかはペアリフトに1人ずつ。かくして姥沢まで下りてきた我々一行は岡田ドライバーと約6時間ぶりに再会を果たすことができた。
山形道わきの「道の駅にしかわ」に隣接する水沢温泉館で汗を流し、月山の名水を使った地ビールでのどを潤し、無事下山を喜びあう。帰りの高速道はたいした渋滞もなく、山形道、東北道と順調に乗り継ぎ、2日間の山行にピリオドを打った。(G)
コース記録
7月23日(土)
清澄白河5:30貸切バス出発==(木場、錦糸町経由)==5:55曳舟==首都高・堤通==東北道・村田JT==山形道・鶴岡ICで下りる。県道45号線を経て羽黒町手向の「いでは文化会館」駐車場12:45(全員バスを降車/昼食)
いでは文化会館13:15⇒⇒出羽三山神社随神門⇒⇒国宝五重塔⇒⇒一の坂⇒⇒二の坂⇒⇒三の坂⇒⇒羽黒山頂・三神合祭殿⇒⇒山頂駐車場(全員、バスに乗車)==15:30宮田坊(泊)
7月24日(日)
朝食5:00 ⇒ 宮田坊5:50=(バス)=6:45月山八合目駐車場(全員、バスを降車) 月山八合目7:05⇒⇒仏生池⇒⇒9:20行者返し⇒⇒10:15月山10:50⇒⇒11:45牛首⇒⇒12:05姥ケ岳⇒⇒12:45リフト上⇒⇒13:00リフト下⇒⇒13:10姥沢駐車場(全員、待機のバスに乗車)
姥沢駐車場13:15==13:45「道の駅にしかわ・水沢温泉館/月山銘水館」15:45==山形道・西川ICから、東北道経由で21:00前帰京。
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