唐松で花を愛で、五竜で豪快な登攀を満喫
唐松岳2696m 五竜岳2814m 2010年7月16日(金)〜19日(月)
夏本番。心配されていた梅雨空も杞憂に終わり、この上ない晴天に恵まれた後立山の縦走となった。高山植物の宝庫として知られる八方尾根は、まさに花が咲き誇るシーズン真っただ中、そして五竜はスリリングなクサリ場の連続となった。
ちょっとハードなスケジュールを覚悟して、新宿駅西口の都庁大型駐車場に午後10時前に集合。大きなザックをかついだハイカーがあちこちから集まってくるバス乗り場で、我々11人は白馬行きの夜行高速バスに乗り込んだ。徐々に天気が快方に向かっている中で気がかりは到着後の初日の空模様だ。バスは高速と一般道を乗り降りして渋滞を避けつつ、極めて順調に運行。定刻より1時間も早く八方のバスターミナルに到着した。現地の空模様は上々の晴天だ.
よしッ、ターミナル周辺の白馬の山並みの稜線もくっきり見える。申し分ない素晴らしい山行になると確信しつつ、ターミナルで朝の腹ごしらえをし、ゴンドラ駅に向かった。今回は1800mの地点までゴンドラとリフト3本を乗り継ぐことで、上りの山頂までの標高差を800mほどに短縮した。
最後のリフトを降りると第一ケルンがある八方池山荘だ。ここまでは簡単なハイキング装備で来ることが可能だ。準備体操の後、入山届を山荘に提出し、3日間の縦走の一歩を踏み出した。ロープで仕切られた木道を上がると、チングルマ、ワタスゲ、ヨツバシオガマ、イワカガミ、ニッコウキスゲ、クルマユリなど多くの高山植物が出迎えてくれた。雪渓もあちこちに残り、7月とはいえ、やはり北アルプスの山道だ。小休止した八方池では青空のキャンバスに、白馬槍ケ岳、杓子岳、そして白馬岳と白馬三山が素晴らしい稜線を描いていた。
丸山ケルンに至るまでに、次々と雪渓が現れる。ひときわ大きいのが扇雪渓だ。雪渓の上を伝わってくる風はひんやりと冷たく、道の両側にはシラネオアイやキヌガサソウが見られる。樹林の中の涼やかな山歩きを楽しんだら、今度はスパッと切れ落ちた崖沿いの狭い道を山側に張り付くように緊張して歩かなくてはならない。そうこうするうちに歩き始めから4時間近く。赤い屋根の特徴ある唐松岳頂上山荘の裏手に飛び出した。宿泊手続きを済ませた後、ガスが濃くならないうちに山荘から一直線に延びる唐松岳の頂上を目指すことにする。20分足らずで、山頂の三角点に到着。山頂から白馬連峰を見ると、あの峻嶮な天狗の大下りから、不帰キレット、不帰の嶮のギザギザの峰がよく見える。
2日目は山荘裏手の小高い山から日の出を拝むため午前4時に起床した。地平線に広がる雲海、そして雲海。富士山が八ヶ岳を従え、南アルプスや浅間山、中央アルプスの山並みが雲海の上に顔を出している。上越の山並みも見える。雲海の一角から、強い光芒が四方八方に放たれたかと思うと、みるみるうちに大きな真っ赤な太陽が地平線の上に上がる。光り輝く雲海。反対側に位置する白馬連峰や立山連峰は稜線から徐々に明るく、下へと照り映えていく。わずか10分に満たないうちに、ぐるり取り巻く景色が太陽の光源を受けて変容していく。このドラマチックな一日の幕開けは、太古から営々と続く。
朝食を済ませ、6時半過ぎに唐松岳頂上山荘を出発。いよいよ眼前にどっしりと構える五竜に挑む。下から眺めると、山頂からは幾筋も雪渓が駆け下り、ごつごつとした岩塊に形成された登山道はきつそうだ。遅くなればなるほどガスが上がってくるので早目にアタックすることにする。多くの登山者が先行している道をゆっくりと慎重に上がっていく。ザレた道、狭い巻き道、岩場に印された登山道を示すマークを見落とさないように歩みを進める。昨日宿泊した唐松岳頂上山荘の赤い屋根がどんどん小さくなっていく。登下降を繰り返し、ようやく頂上直下の大きな壁の真下に来る。思わず腰が引けるほどの荒々しい岩の塊が迫ってくる。足を滑らせたら大けがは免れない=写真上=。生死にもかかわる。皆で声を掛け合い、ようやく頂上にたどりつく。南西側の斜面からはガスが少しずつ上がってくるが、劒岳をはじめとする立山連峰の稜線がくっきりと見える。ほっとした充足感を味わい、山座同定しながら、めいめい持参した五竜小屋の弁当を食べ、40分ほどの頂上滞在で下山した。
最終日は、5時前に食堂前に並び、朝一番の朝食を食べ、6時前には小屋を後にした。下山は遠見尾根の長丁場で1100mほどの標高差を下る。這松(ハイマツ)帯の狭い稜線。急こう配のクサリ場。ザレたヤセ尾根。休憩を多くはさみながら下っていく。途中、全員が童心に帰ったのが雪渓での雪遊びだ。互いに雪を投げ合ったり、暑くほてった首筋を冷たい雪で冷やしたり、なごんだひと時を楽しんだ=写真中と下=。
ぎらぎらとした日差しの中、大遠見、中遠見、小遠見と通過し、地蔵の頭を経てテレキャビンのゴンドラ乗り場にたどりつくと、地元観光協会の催しで女性のコーラスグループが山の唄を披露していた。彼女らの歌声はまさに3日間の無事山行のねぎらいの響きをもって我々を迎えてくれた。ふるまわれた五竜汁も美味しかった。エスカルプラザで汗を流し、ゆっくりしたひと時を過ごした後、JRで帰京の途についた。(G)
コース記録
【7/16(金)1日目】
新宿22:30=(翌7/17) 5:35八方インフォメーションセンター(バスターミナル)
【7/17(土)2日目】
八方インフォメーションセンター6:20⇒⇒6:30八方尾根ゴンドラリフト・アダム発着所⇒(ゴンドラリフト…アルペンワッドリフト…グラートクワッド)⇒7:10八方池山荘7:30⇒⇒8:45八方池/第3ケルン⇒⇒扇雪渓⇒⇒10:45丸山ケルン11:10⇒⇒12:05唐松岳頂上山荘12:45⇒⇒13:05唐松岳13:25⇒⇒13:45唐松岳頂上山荘(泊)
【7/18(日)3日目】
唐松岳頂上山荘6:35⇒⇒大黒岳⇒⇒白岳⇒⇒10:20五竜山荘10:40⇒⇒12:05五竜岳12:45⇒⇒13:50五竜山荘(泊)
【7/19(月)4日目】
五竜山荘5:55⇒⇒8:25大遠見⇒⇒9:15中遠見⇒⇒9:45二の背髪⇒⇒10:35地蔵ノ頭⇒⇒10:50テレキャビン乗り場/アルプス平=(五竜テレキャビン)=11:35とおみ駅⇒⇒11:40エスカルプラザ(入浴)15:35=(シャトルバス)=15:40JR大糸線神城15:50=(信濃大町経由)=17:27松本18:35=(スーパーあずさ32号)=21:06新宿(帰京)