憧れの槍の穂先は今、足元に

槍ヶ岳 3,180m 20088月6-10日  8日の登頂日は晴れ


 2008年8月8日午後0時58分、鉄梯子の最後の一段を踏み越えて3180mの槍ヶ岳の頂上に立った。計画作り、メンバー確定からほぼ1ヶ月。「槍」の穂先のテッペンは、この瞬間、我々の足元にあった。

 そのピラミダルな山容は「日本のマッターホルン」の名にふさわしく、真っ青な空へとそびえる槍の頂上山登りをする誰しもにとって憧れの、日本で5番目の高峰だ。富士山以外の4峰はわずか15mの高さを競い合い、槍ヶ岳はその4峰のうち、どの山よりも天に槍を突く特異な姿がアルピニストの人気を集めている。

 新宿発の濃飛高速バスに乗って、平湯温泉経由で登山口となる新穂高温泉に到着したのは、8月6日のお昼過ぎ、。ゲート前でまずは腹ごしらえをして出発だ。砂利道やコンクリートの林道を歩くこと1時間余り、途中、通り雨に会うも、雨具で身を固めるほどではない。周囲の植生がブナ林に変わってきたころ、初日の山小屋わさび平小屋に入った。風呂付きのこの小屋は有難い。簡単に汗を流した後、夕食前、小屋のベンチに集まり、早速ビールで今回の山行の幸先を祈って杯を挙げた。

 2日目の行程は、1日に1300m登るロングトレイル。距離も標高もある前半のヤマ場だ。左俣林道から小池新道に抜け、秩父沢の出会いを渡渉し、高度をどんどん上げる。きつい。鏡平池では水面に映る「逆さ槍」が、槍登頂への思いをかきたてる。標高2300mの山荘前のベンチで皆で分け合ったカキ氷の何とおいしかったことか。この後は、いよいよ胸突き八丁だ。強い日差しの中、休憩の回数を増やしながら、弓折岳を巻いて稜線に出る。2600mの弓折乗越で昼食を済ませて、さらに裏銀座の要衝でもある双六小屋を目指す。花見平の雪田で雪渓渡りを楽しみ、しばらくすると双六小屋だ。全く人見知りすることを知らないライチョウの親子にも出会った。

 3日目。いよいよ槍へのアタックの日がきた。長丁場、きつい登りを考えて双六小屋では4時半に朝食をとり、5時5分に小屋を出た。しょっぱなからの樅沢岳の急登はかなり堪える。この西鎌尾根の最大の特徴は、「槍」を目指しての尾根歩きだ。目の前に、いつも槍がそびえ、急登にあえぐ我々の足並みを励ましてくれる。小屋を出てから約5時間、千丈沢乗越に到着。ここから先はさらに厳しい登りとなる。ゆっくりゆっくりジグザグと歩く。途中、穂高連峰の西側にかかる雲の一部がコバルトブルーに、またオレンジに変色する「彩雲」という不思議な現象を初めて目にした。

 ちょうど正午。槍岳山荘に到着。30分後、すぐに立ちはだかる巨大な壁、槍への登頂を開始する。ロッククライミングさながらの岩登りの連続だ。登る人、降りる人が岩の上ですれ違う。ひとつ間違えると、命に関わる危険箇所が次々と出てくる。いくつものクサリ、そして鉄梯子。登り始めて30分後、最後の長い鉄梯子を登り切ると憧れの槍の頂上だ。すでに大勢の人がいて、カメラのシャッターを切り続けていたり、四囲の山並みを飽かず眺めている。我々も頂上のシンボルである祠(ほこら)の廻りで記念撮影をし、遠くは八ヶ岳、新潟の妙高、そして富士山、常念岳などの山座同定をひとしきり楽しんだ。天気は快晴で申し分ない。降りるのがもったいないくらいだが、後続の登山者に眺望を譲るためにも、下山を開始した。頂上の滞在時間は10分前後だが、この感動は、これからの山人生の中でずっと持続するだろう。

 念願の槍登頂を終えた翌9日は、これまた一日歩行距離としては、我々がこれまで経験したことのない長い時間を歩き通した。氷河公園といわれる天狗池にも立ち寄り、槍沢ロッジ、横尾山荘、そして井上靖の小説「氷壁」の宿として知られる徳沢園へと一気に下った。長い下りでパンパンに張った足を途中の梓川の川べりで冷やした爽快感は忘れられない。午後3時半、ようやく徳沢園に着き、3日ぶりに風呂に入ったあと、皆で「締め」の乾杯、美味しい夕食を心ゆくまで味わった。5日目の最終日は、上高地の散策を楽しみ、バス、電車で新島々、松本と乗り継ぎ、予定通りの特急あずさ26号で帰京した。         (G)

<5日間の行程記録>

8月6日(水)
新宿7:00=(高速バス)=11:30平湯温泉11:40=(路線バス)=12:13新穂高温泉(昼食休憩)13:00⇒⇒14:30わさび平小屋 <泊>
        
8月7日(木)
わさび平小屋5:05⇒⇒6:25秩父沢⇒⇒7:25イタドリガ原⇒⇒8:00シシウドガ原⇒⇒9:30鏡平山荘9:50⇒⇒11:05弓折乗越(昼食休憩)11:35⇒⇒13:30双六小屋<泊>

8月8日(金)
双六小屋5:10⇒⇒6:05樅沢岳⇒(途中昼食休憩)⇒10:05千丈沢乗越10:25⇒⇒12:00槍岳山荘12:30⇒⇒12:58槍ヶ岳頂上⇒⇒13:40槍岳山荘 <泊>

8月9日(土)
槍岳山荘5:50⇒⇒6:40坊主ノ岩小舎⇒⇒7:40天狗原分岐7:50⇒⇒8:35天狗池⇒⇒9:28天狗原分岐9:35⇒⇒10:30水俣乗越分岐10:50⇒⇒12:00槍沢ロッジ12:15⇒⇒14:35横尾山荘⇒⇒15:30徳沢園   <泊>

8月10日(日)
徳沢園7:10⇒⇒8:10明神…散策…上高地バスターミナル12:40=(バス)=13:45新島々14:08〓(電車)〓14:37松本15:47〓(特急あずさ26号)〓18:36新宿


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